卒業


ある日の午後。
俺は用事を頼まれ、目的地に向かって歩いていた。
誰もいない、木々が覆い茂った静かな道を黙々と歩く。
すると、前方に人の気配を感じた。
誰だ?こんな所で何をしてる?

―――――あれ?あれは・・・ナルト!?

俺の心拍数が一気に上がった。
何でこんな所に俺の愛しのナルトが!?こんな偶然あるか?俺が夢でも見てるのか?
いや、でもあれはどう見てもナルトだ。しかも・・・ちょっと様子がおかしいぞ?

ナルトは少し大きい石に座って、ジッと下をむいて動かない。何か思い悩んでる感じだ。

こんなナルトは初めて見る。無表情のナルト。何かを思い悩むナルト。
―――あぁ!こんなナルトも萌える!!

・・・・・いやいや!いかん!俺はナルトが堪らなく好きだが、絶対に誰にも悟られないようにすると決めたんだ。
だっていくら何でも年が違いすぎるし、立場も違う。しかも男同士だ。
だから俺は、いつもナルトが幸せでいられるように近くでずっと見守っていく事を心に決めたんだ。
萌えてる場合じゃない!

「ナルト?・・・・こんな所で何してるんだ?」

俺は、冷静を装って声をかけた。

「カカシ先生・・・」

くぅっ!いつもならテンション高めのナルトが、こんなに元気がないなんて!!元気のないナルトって艶やかで何だか悩ましいじゃねーか。色気ありすぎるぜ畜生!

「何かあったのか?」

俺は萌える心を抑えて、ナルトの近くに座った。

「うん・・・初めて好きな人が出来て悩んでる。人を好きになったらどうすればいいのかな?」

――――――――は?今、何ておっしゃったのかしら???好きな人?初めて?悩んでる?

俺はあまりのショックに呼吸困難で倒れそうになったが、動揺してるのを悟られてはいけないので、努めて冷静に振る舞った。

「す・・・好きな人か。は、初恋か?いい事じゃないか。・・・相手はどんな娘だ?」

少し声が裏がえったが、何とか普通に言えた。よしよし、その調子だ!俺。
こんな事で我を見失ってはいけない。俺はずっとナルトの近くで幸せを見守っていくって決めたんだから。

「年上の人・・・いつもその人の視線を感じてはいたんだけど・・・・いつの間にか、俺もその人の事が気になっちゃって。意識しちゃって。頭から離れなくなっちゃった」

・・・・年上?年上だと?
―――誰だ?サクラやヒナタじゃないとすると・・・綱手か?・・・いや、いくら何でもあれは年上過ぎるだろ!

「カカシ先生、どうしたら両想いになれるかなぁ?何かいい方法ある?」

ぐはっ!何て可愛い顔をするんだ、ナルト!
・・・くそっ!ナルトにこんな可愛い顔をさせるのはどこのどいつだ!?許せん!

動揺を通り越して、だんだん憎しみが湧いてきた。
こんな可愛いナルトを独り占めできる奴がいるなんて許せない。

そうだ。俺はナルトの幸せを見守ろうとは決めたが、まだ心の準備が出来ていなかった。
心の準備が出来ていないと言う事は、ナルトの幸せを見守れないと言う事だ。

――――残念だが、今回は幸せになってもらうのはやめよう。そうしよう。
誰に何と思われてもいい。今ナルトが他の誰かと幸せになるのは今は嫌だ。そんなの見るのも嫌だ。聞くのも嫌だ。

「ナルト。男なら告白は強引にいった方がいい」

「・・・強引に?」

「そうだ。とりあえず何も言わず相手を押し倒してみろ。相手は多少驚くかもしれないが、そんなのは気にしなくていい。
そして、自分の想いを体でぶつけるんだ」

「体で?でも、いきなりそんな事したら嫌われるんじゃ・・・・」

勿論嫌われますとも!一歩間違えれば強姦にもなりますでしょうね。
でもそれが私の目的なんで。ナルトが初恋の相手にフラれた暁には、私がたっぷり慰めてあげますとも。


あぁ・・・・・俺ってこんなに自分をコントロール出来ない幼稚な悪党だったのか。自分でも初めて気付いたぜ。
でも、この悪党な俺を倒せるヒーローな俺は、残念ながら今現在存在しない。

「大丈夫だ。強引な方が絶対上手くいくぞ。気持ちを伝えるのは言葉じゃなくて体の方がいい。俺はそう思う」

「本当にそう思う?」

「心からそう思う」

ナルトの不安を取り除くべく、俺は自信たっぷりに堂々と答えた。

「そうか・・・そうなんだ。わかった。やってみるってばよ!」

ナルトは力強くそう言うと立ち上がった。

すまん、ナルト。多分相手に超嫌われるぞ。
でも、それでいい。
激しく玉砕すればいい。
俺が側で慰めてやるから。

何なら慰めてる俺に、うっかりフォーリンラブしてくれても構わないんだぞ!
そうなったら俺は、お前を溺愛する自信たっぷりだ。



「・・・・って・・・え?何?何だ?ナルト、どうし・・・!?」

突然ナルトが俺の目の前に来たかと思ったら、いきなりキスをしてきた。
――――!?

何だ!?何が起こってるんだ!?

頭の中が真っ白になる。
そのまま俺はナルトに強引に押し倒される。

「ちょっ・・・ナルト!どうしたんだ!?・・・ま、待て待て!」

「待たない。カカシ先生が強引にしろって言った」

そう言うと、ナルトは俺の服を脱がしにかかった。
待て待て待てー!!!何だ!この予想外の展開は!!
―――って言うか俺が受け?!年齢的にも身長的にも攻めは俺だろ?!
いやいや!問題はそんな事じゃなくて・・・・

え?ナルトの好きな年上の人って・・・ひょっとして俺かーーー!?
しかも、ナルト以外にキス上手い!気持ちいいんですけど!!

動揺モロ出しの俺とは正反対に、恐ろしい程冷静にナルトが迫ってくる。

「カカシ先生・・・好き」
「ナルト・・・」

ヤバい。今のナルトの言葉で、もうどうなってもいいと思えてきた。だって、ナルトが俺の事を「好き」って言ったんだぞ?!アンビリーバボー!!


俺が頭の中でパニックを起こしてる間も、ナルトのキスが次々降り注ぐ。
そんなナルトの情熱的なキスの嵐に、俺の理性はどんどん薄れていく。

――――そして俺は強引なナルトにされるがままになってしまった―――――





「・・・・カカシ先生・・・大丈夫?」

―――――ん?何だ?ここはどこだ?・・・あぁ俺、ナルトに恋の悩みを相談されてたんだっけ?・・・・
いや、違う・・・・そうだ!俺、ナルトに・・・

「気を失ってたのか・・・俺」

意識はハッキリしてるのに、体が気怠くて声がかすれる。

「ごめん、俺、夢中になっちゃって・・・自分を見失っちゃって・・・」

そう言って俯くナルトがすごく綺麗だな、なんてぼんやり思ったりして。
「俺がカカシ先生の事好きだって言ったら、みんながカカシ先生の好みの告白をすれば絶対上手くいくって進めてくれて・・・・
“カカシ先生はいつも舐め回すようにナルトをガン見してるし、多分ナルトを好きなはずだから告白してみろ”って言われて・・・」

―――何だ。そうだったのか。みんなのアドバイスを受けての行動だったのか・・・・・・・・って!!えぇーーーー!
俺の気持ちバレバレだったのかーい!!

「みんなって・・・?」

「サクラちゃんやサイやシカマルやヒナタやネジや・・・」

「わ、わかった!もういい。みんな・・・だな」

何だ。今まで俺一人が周りにバレてないと思ってたって事か。
恋って恐ろしいな。上手く気持ちを隠してると思ってても、周りに簡単に見破られるくらい自然に行動に出てるんだから。

「カカシ先生・・・俺の事どう思ってる?」

「みんなが言う通り。好きだよ。大好き」

「ほ・・・本当に!?」

「本当に。ヤバいくらい好きです」

「カカシ先生・・・・嬉しいってばよーーー!」

そう言って抱きついてくるナルトが、もう自分のものなんだと思うと妙に嬉しくなったりして・・・・。
夢なら醒めないでほしい。

「やっと片想いから卒業できた・・・・」

そう言うと、ナルトは俺にキスをした。

結果的に、破局させようと思って吹き込んだ俺のアドバイスが自分に返ってきた訳だが、こんな告白も悪くないと思ったりして。
いや、むしろ良かった。ナイスアドバイス!俺!
しかし、ナルトはいつどこであんなテクニックを身に付けたんだろう?
あまりのテクニックに体中が痺れたぞ。あれを無意識でやってるとしたら・・・すごい才能の持ち主だと思う。

「さて!カカシ先生は今から用事があるんだよね?
俺はみんなに報告しなくちゃいけないから、先に帰ってるね!じゃ!」

「あ!ナルト!」

ナルトは軽やかな足取りで去ってしまった。
まぁ仕方ないか。みんなに報告したいんなら・・・・・
え?報告?

まさか・・・今の出来事をみんなに報告するのか?俺のアドバイスから、俺のいじられぶりまで・・・全部暴露されるのかーー!?

「ナ、ナルト!!ちょっと待ってくれーーー!」

速攻追いかけたいのに、先程ナルトに愛されまくった体は思うように動かない。

あぁ・・・後で何て言い訳しよう?

でも、その前にナルトにキスしよう。まだ俺から何もしてないからな。

言い訳はその後で考えればいいか・・・・・



片想いからの卒業。
それは恋人の始まり。
今日から二人の時間が回り始める――――――――