始まりの日





待ち合わせはPM7:00

手塚は15分程早く待ち合わせ場所に到着していた。

――――― 完全にあいつのペースだな・・・・・・手塚は深いため息をつく。

金曜日の夜とあってか、街は人で溢れている。

まだ来ない相手の姿を目で探しながら、手塚は数日前の電話での

やりとりを思い出していた ――――――。



「手塚か?どうしたこんな時間に」

「夜分すまない。いろいろ忙しくてこの時間になってしまった。

 今日ふと思い出したんだが確か10月4日は跡部の誕生日だったろう?」

「あぁそうだが・・・・それがどうかしたか?」

「お前には何度か頼み事を聞いてもらったりして世話になったから、この機会に

 何か礼でもしようかと思ったんだが・・・・・なにがいいのか思いつかなくてな」

「それで直接交渉というワケか」

手塚らしいやり方だな、と跡部は笑った。

「急に何が欲しいと聞かれても思い浮かばねぇな・・・」

跡部はしばらく沈黙し、そしてこう切り出した。

「――― そうだな。それじゃ金曜の夜に待ち合わせしようぜ。7時頃なら

 部活も終わっているだろう?」

手塚は跡部の予想外の言葉に驚いた。

「待ち合わせ!?何をするんだ?」

「デートしようぜ」

「は?」

「とにかく金曜の夜だ。駅の東口に7時。これで交渉成立だ。いいな?」

絶対来いよと言い残し電話は切られた。

相変わらず一方的な奴だ。

デートってどうゆう意味だ?

直接交渉しなければ良かったな・・・・と手塚は思った。







「よぉ手塚、もう来てたのか」

待ち合わせ10分前、ブランドジャケットに身を包んだ跡部が現れた。

いつもより大人っぽく見える。そういえばこんな風に二人で会うのは初めてだ。

「これから一体どこに行くんだ?跡部」

「手塚は洋食より和食が好きっぽそうだから俺の知ってる和食屋を

予約しておいた。行こうぜ」

そう言うと跡部は手塚の手を引いて歩き出した。

――― このシュツエーションは一体何だ!?跡部と手をつないで街を歩いている。

これじゃまるで恋人同士みたいじゃないか。

跡部の意表をついた行動に手塚は困惑した。

「跡部・・・・・これじゃまるで本物のデートみたいだぞ」

「あぁ?何言ってんだ?本物のデートに決まってんだろ」

「!?」

本気で言っているのか、それともからかい半分で言っているのか分からなかったが、

跡部のその一言に手塚の思考回路はショートしそうになった。











しばらく歩くと和食屋とはイメージが全く違う料亭のような店が見えてきた。

「跡部・・・・」

跡部に手を引かれるがまま大人しく歩いていた手塚が口を開く。

「まさか この料亭に入るワケじゃないよな」

「・・・・・何だ手塚、和食より洋食の方がいいのか?」

「いや そうゆう問題じゃない・・・・」

「金なら心配いらないぜ。後でうちの者が払いに来る」

「・・・・・・いやそうゆう問題でも・・・」

言いながら手塚は″もういいか″と諦めモードになった。もともと手塚の方から跡部に

バースディプレゼントの話を持ちかけ、跡部が2人で外出する事を望んだのだから

ごちゃごちゃ言わずにその通りにした方がいいと思った。

頭の中では様々な疑問が駆け巡っていたが、あまり考えないようにする事にした。





その後、手塚は自分とはあまり縁の無い料亭で跡部と食事をし、互いの部活の話や

他校の選手の話などをした。

跡部との会話は手塚は好きだった。話題が噛み合うのはは勿論の事、自分の知らない

情報も跡部は知っていたりするので、いろいろ聞けて楽しい。そしてそうゆう相手

がいるというのは、とても貴重な事だと手塚は改めて思った。





食事を終えて外に出ると跡部は駅とは逆方向に歩き始めた。

「どこへ行くんだ 跡部」

「散歩。少し歩こうぜ」

そう言うと跡部はまた手塚の手を取った。

「――――― 跡部・・・別に手を繋がなくても散歩はできるだろう」

手塚は恥ずかしそうに小声で言う。

「俺はつなぎたいんだよ」

跡部の言葉に手塚の顔は赤くなる。

そして そのまま2人は無言で歩き続けた。



なんだか今日は調子が狂うな。跡部のペースに合わせているからか?

でもつまらないワケではない。なんだか変な感じだな・・・・。

手塚はつないだ手の温かさを感じながらそんな事をぼんやり考えた。



しばらく歩き続けると公園に着いた。跡部はベンチに腰をおろし手塚に隣に座るよう

手でポンポンと叩いた。

少し躊躇しながらも手塚は言われるがままに隣に座った。

そしてしばらくの沈黙の後、跡部が手塚に小さな包みを渡した。

「これ やるよ」

「――― 何だ?」

「プレゼントだよ」

「プレゼント?」

「今日は何月何日だ?お前俺の誕生日を覚えてて自分の誕生日は忘れたのか?」

「―――― あ・・・・」



今日は10月7日。手塚の誕生日だった。

跡部は最初からこの日を知ってて待ち合わせたのだ。



「すまない 俺はお前にプレゼントを用意いてなか・・・・」

手塚の言葉をさえぎるように跡部は手塚に口づけた。

「これが俺へのプレゼントだ」

手塚は一瞬の出来事に頭の中が真っ白になった。そしてそれに反して顔はみるみる

真っ赤になった。

「俺はお前が好きだぜ、手塚」

手塚は何か言おうとしたが言葉が見つからなかった。

すごく恥ずかしいけど嫌ではなかった。

それどころか跡部の気持ちを知って嬉しくなっている自分に気がついた。

「お前も俺が好きだろう?・・・・好きになれよ」

跡部の強引な口ぶりに思わず笑った。

「気持ちの押し売りしてるみたいだな」



でもよく考えてみればいつも自分の心の中には跡部の存在があったのかもしれない。

良きライバルでもあり、それと同時に頼れる相手でもあった。

家族以外の人間の誕生日を覚えていたのも跡部だけだ。

そう考えると自分の中で跡部は特別な存在なのかもしれないと手塚は思った。



渡されたプレゼントの中には青いリストバンドが入っていた。

「ありがとう」

手塚は少し照れたようにうつむいて言った。

跡部は手塚の肩に手を回して自分の方に引き寄せた。

そして

「俺の方こそ″ありがとう″だ。手塚と俺の誕生日は近いからこれから毎年2人で

一緒に祝おうぜ」

と言った。



そうだな。これからずっと ずっと 一緒に祝おう。

10月4日  大好きな君へ Happy Birthday

10月7日  愛しい君へ Happy Birthday







あとがき
初!初!初作品です。 菊丸が好きなのに跡塚で始まりました。
小説は初だったのですが・・・・とっても楽しかったです。
これからも精進してゆきます。