『浮気』


半年前ランニングをしている菊丸の反対側から跡部が走って来た。

跡部もランニングをしていたと聞くと、氷帝からこんなとこまで走って来るなんて跡部って結構努力家なんだなぁなんて思ったりしていた。

二人で近くの公園のベンチに座り缶ジュース飲みながら世間話をしていた。

その時の跡部の印象は『これで同じ歳なんだ』だった。

あまりにも大人すぎて・・・・・・・手塚も同じ歳には見えないけど、手塚とはまた違った大人っぽさ。そんな事を考えていた。

 

その日から毎日跡部と公園で話すようになってメルアドも交換した。毎日の日課になった公園での跡部との座談が楽しみで菊丸はランニングを続けていた。

毎日話もしてるし、菊丸に恋人がいると跡部も知っていたから、菊丸からメールをした事はなかったし跡部からも来た事がなかった。

菊丸の恋人は二つ年上の先輩。普段は優しくて穏やかな人だったが怒り出すと手がつけられなく菊丸は殴られて身体に痣も作ったりしていた。跡部もそれを知って菊丸の愚痴を聞いてくれたりもした。

不二と浮気してると言い・・・・・・桃城や越前にまで嫉妬していた先輩。

不二はそんな菊丸を見て『そんな奴と早く別れろ』と常日頃から言っていたがその度笑って誤魔化していた。

以前跡部にも『本当に好きなのか?』と聞かれたが菊丸は答えられなかった。

即答しない菊丸にどう感じたのか、跡部はフッと鼻で笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

♪♪♪ ・・・・・

え?跡部・・・・・

困惑しながらメールを見た。

『何してる?今近くにいるから出て来ないか?』

一瞬考えてから菊丸は手慣れた手つきで返信メールを打った。

『良いよ。近くってどの辺にいるの』

返信したと同時くらいに電話が鳴り一瞬携帯を落としそうになりながら電話に出た。

「も・・・・もしもし・・・・・跡部?」

「お前の家の近くの空き地だ早く来い」

「ほぃほ~ぃ直ぐ行くよん」

電話を切り駆け足で跡部の待つ空き地に向かった。空き地に着くと跡部は俺の手を引いて待たせてあったのか、停まっているタクシーに乗りこんだ。

「俺の家で良いか?」

「え・・・・うん別にどこでも良いけど」

しばらくして跡部の家に着いて部屋に入った菊丸は目をキラキラさせながら跡部の部屋を見渡した。自分の部屋とは全然違う。広さは勿論、男の部屋とは思えないイイ香がした。

「跡部の部屋王子様の部屋みたい」

「ぁ~ん普通だろ」

「はは・・・・・跡部の普通は庶民にとっちゃ普通じゃないから」

何気ない会話に花が咲いて、この時『跡部もまだまだ子供だなぁ』なんて思った。

先輩の愚痴をこぼしたりもして・・・・・・・・

 

刹那。

口を閉ざした跡部が菊丸を抱きしめた

「あ・・・・・跡部?」

「信じられなくなった時点で恋人失格だ。もうガマンしねぇ」

そして菊丸の言葉をさえぎる様に唇を重ねた。

「跡部・・・・・ダメだよ。俺・・・・恋人が・・・・」

「そんなの恋人でも何でもねぇ!そいつはただ恋人ごっこをしてるだけだ!それに・・・・・・・好きになったもんは仕方ねぇ・・・だろ?」

「跡部は俺が好きなの?」

「お前が俺を好きなんだろ」

なんて俺様なんだろう・・・・自分からキスしたくせに俺が跡部を好きなんて・・・・俺は先輩が好きで付き合ってんのに・・・・跡部が俺を好きなんだろ!

ううん。

やっぱり俺が跡部を好きなんだ

そんなふうに思いながら菊丸は跡部と一つになった。

 

 

「大丈夫か?遅くなっちまったな。でもまた来いよ」

「うん。また来る」

ニッコリと微笑み菊丸は跡部が呼んでくれたタクシーに乗り込んだ。

 

 

家について直ぐ、ベットに潜り込んだ菊丸は跡部にメールを打った。

『今日は楽しかった。また遊びに行くね』

「英二!カタカタって携帯うるせーよ早く寝ろ!」

「ごめん・・・・おやすみ」

 

 

夕べ布団の中で跡部との事を考えて菊丸は眠れないでいた・・・・・・・・・・・結局ウトウトし始めたのが明るくなってから・・・遠くでスズメが鳴いていた。

眠い目をこすりながら朝練に向かう菊丸の前を恋人の先輩が歩いていた。

先輩も朝練なんだ。だよな先輩も高等部のテニス部だもん。

「先輩・・・おはよ」

「英二・・・・・朝から英二の顔見れるなんて今日は良い日だな」

「またそんな事言ってぇにゃんにも出ないからね」

先輩と登校するなんて久しぶりでなんだか楽しかった。でも菊丸は無意識に隣を歩いているのが跡部だったら・・・・・と考えていた。

どうしてかな

きっと俺は跡部が好きだから。

ランニングしてたあの日跡部に会った時から。

違う

初めて跡部の試合を見たその日から俺はずっと跡部に惹かれてた

先輩と付き合う前から跡部が好きだったんだ。

どうして・・・・・・もっと早く気付かなかったのかな

ごめんね先輩・・・・・・・・・・・・・・・・・・。俺先輩の事好きじゃない。

そう考えながら校門で先輩と別れた。

 

 

 

朝練が終わって携帯を見ると跡部からメールが入っていた。それを見た瞬間からドキドキが止まらない。内容も見てないのに跡部からのメールってだけで・・・・・

深呼吸してから携帯を開いた。

『昨日は眠れたか?授業中に寝るなよ』

たったそれだけのメールだったけど嬉しかった

「英二何携帯見てニヤついてるんだ・・・・・・変な奴だな」

大石にため息混じりにそんな事言われても気にならないくらい胸が高鳴った。

跡部に返信メールを打っていると急に光がさえぎられた。

「ふぅん・・・・英二、跡部となんかメールしてるんだ」

耳元でボソッと聞こえたその声は親友の不二。

「・・・・不二ぃビックリさせないでよ」

不二はいつもみたいにニッコリ笑って俺の頭をクシャってした後に

「良いんじゃない。あんな甲斐性なしの先輩より」

「人の恋人甲斐性なしって酷くない」

「甲斐性なしじゃなかったら何?」

「もぅ・・・・不二ぃ」

2年前俺が先輩と付き合うって言った時猛反対だった不二。

「英二が不幸になる」

そう言った。

不二から見て俺は今不幸?

不二を見つめながらなんとなくそう思ったのを不二は分ってか、またニッコリ笑って

「跡部はあんなだけど絶対優しい奴だよ・・・・・だから氷帝の皆は跡部に着いていくんだ幸せになって・・・・・英二」

「不二?」

「さ、早く教室戻ろうHL始まっちゃう」

不二は菊丸の手を引いて走り出した。

 

 

 

優しい不二。

いつも俺の事心配して、想ってくれててイロイロ相談にものってくれて。

不二を好きになってたらきっと幸せだったんだろうな・・・・・なんて思ったりする。

でも俺は知ってる。不二には大切な人がいるって。2人ともあんなだから誰も気付いてないけどね・・・・・・

 

 

 

 

跡部とあんな風になってからも毎日のランニングは続けてて公園でいつもみたいに過ごしていた。でもあの日から違うのは必ず跡部が菊丸にキスをする。

抱きしめて愛おしく。

 

 

 

 

一時間目の授業が始まって直ぐ、胸ポケットに入ってた携帯がブルブルいった。

瞬間。菊丸はその送信相手が跡部だと思った。

どうしよう・・・・・気になる。

「先生!!トイレ行って来ます!」

先生の返事を待たずに菊丸は教室を出て走り出す。シ・・・・ンと静まり返っている廊下に菊丸の足音が響いた。

トイレの個室に入ると菊丸は携帯を取り出し受信を確認した。

「やっぱり跡部だ・・・・・って跡部も授業中じゃないのかな」

そんな事を思いながらメールを確認した。

『午後から雨で部活はないから青学まで迎えに行く。待ってろ』

「・・・・・・なにコレ?こんなに天気良いのに・・・・天気予報も1日晴れって言ってたよん・・・・しかも氷帝って雨関係ないじゃん」

クスクス笑いながら返事を送信すると携帯をポケットに入れなおし教室へと戻った。

席に着くと頭にコツンと何かがあたり、床を見ると小さく折られた紙が落ちていた。

「不二・・・?」

その紙を拾い広げると不二からの手紙だった。

『授業中は電源を切らなきゃダメだろ・・・・・相手は甲斐性なし?跡部?甲斐性なしなら1回。跡部なら2回咳して』

読み終わると菊丸は2回咳をした。

 

授業が終わり先生が教室を出ると直ぐに不二が菊丸のそばに駆け寄って来た。

「相手は跡部だったんだ・・・・・じゃ、授業抜け出したのは許してあげる。

・・・・で、何だったの?」

「今日は午後から雨で、部活無いからココに来るって。でもさ天気予報一日晴れって言ってたもんねぇ・・・・」

「嬉しそうだね英二・・・・そんなに跡部の事好きだったんだ。早く甲斐性なしなんか捨てちゃって跡部に行っちゃいなよ」

「・・・・・ねぇ・・・・コレってやっぱり浮気?」

「英二はあの甲斐性なしが好きなの?跡部とは単なる火遊び?だったら浮気だけど違うでしょ。跡部に本気なんだよね?」

「・・・・・ぅん」

「じゃ浮気じゃないよ。早くあんなのと別れるんだよ・・・・・って今日跡部が来るのってその為じゃないかな」

ニッコリ笑いながら不二は自分の席に戻っていった。

「・・・・・そんな。まさか・・・・ね」

苦笑いをしながら菊丸は窓の外を眺めた。今の菊丸には嫌になる位の晴天。太陽がこれでもかって燦々と輝いていた。

 

 

 

 

「菊丸!」

「んー誰?」

「菊丸!!」

「にゃぁ」

「にゃぁ!じゃないこのバカもん!!いつまで寝てるんじゃ!!」

バコッ

頭に強い衝撃を受けて菊丸は目を覚ました。

「ほぇ・・・・・竜崎せんせ?」

「「竜崎せんせ」じゃない!とっくに授業は始まってるんだぞ後ろに立って・・・・・」

「あぁぁぁぁぁぁ!?」

「菊丸!もう一発殴られたいのかい?」

菊丸は教科書を丸めている竜崎を半ばシカト状態で窓にへばりついた。

外は雨。

「せんせ!!今日の部活休み?」

素っ頓狂な事を言う菊丸に脱力した竜崎は怒る気も失せ淡々と授業を進めた。

 

菊丸はあまりの天気の良さに昼食を済ませるとそのまま自分の席で昼寝をしていた。5時間目はたまたま自習になっていたので不二も菊丸をそのまま眠らせていたが6時間目はそうもいかなかった。数学の授業。講師はテニス部顧問の竜崎である。何度も身体を揺すって起こそうと試みるも菊丸は夢の中。そうこうしてる間に竜崎が教室に来てしまったのである。

「英二・・・・・無事を祈ってるからね」

心の中でそう言い不二は自分の席に着いた。

 

 

 

菊丸はドキドキしていた。

凄い!跡部。本当に雨降ってるし!

授業を進める竜崎の声も耳に入らない。

午後の授業も全て終わり掃除の時間。菊丸は不二と階段の掃除をしていた。

「ねぇ・・・・跡部本当に来るかな」

「来るんじゃない・・・・・雨だし。跡部の事だからリムジンなんかで迎えに来るんじゃないの?」

「ぅん・・・・・・」

「でも跡部も案外晩熟なんだね。半年も我慢するなんて」

「へ?」

「僕だったら速攻そんな甲斐性なしから英二を奪うけどね」

「だからおチビも速攻奪っちゃったワケ?ま、誰からってワケじゃないけど」

シ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ン

しまった。菊丸は口を手でふさいだがもうどうしようもない。

一瞬空気が凍りついたかのようだったが不二は笑顔だった。

「なんだ・・・・やっぱり英二は知ってたんだ」

「ぅん。なんとなくね。別に・・・・隠してたワケじゃないんだよね」

「まぁね越前もあんな感じだから誰も知らないと思ってたけど・・・・流石英二。僕の親友だ」

「これからはちゃんと言ってよね。俺だって不二の恋の相談聞きたいから」

「はいはい・・・・ほら・・・・王子様が来てるみたいだよ。女子が騒がしい」

不二に言われ掃除道具をかたづけながら周りの女子の声に耳をかたむけた。

『校門に氷帝の跡部様が来てるらしいよ』

「跡部・・・・・「様」って」

と菊丸は内心思ったがなんだか嬉しかった。自分のことを待っていてくれていると思うと優越感が込み上げてきた。

「早く行っておいで」

「うん じゃまたにゃ」

不二に手を振り走って校門に向かった。

「雨だしねぇ・・・・・・甲斐性なしとはちあわせだろうなぁ」

 

 

 

「跡部!ぁ・・・・・せ、先輩?なんで・・・・・」

そこには跡部ともう1人先輩の姿。

「英二たまには一緒に・・・・」

言いかけたその言葉をさえぎり跡部が菊丸の前に詰寄った

「遅い!俺は待ってろと言ったんだ。俺様を待たせてどうすんだ」

「・・・・メンゴ♡って跡部ぇ今日はわざわざどうしたの?」

「どうしたも何も時間があれば逢いてぇって思うだろ」

「・・・・・まぁ・・・・ね・・・・ハハ」

菊丸は嬉しいのと気まずいのとでどうして良いか分からなくなっていた。

『ぅぇ~ん助けて不二』

心の中で叫んでいた。

まさに修羅場。

「英二!誰だよこいつ」

敵意むき出しの先輩にオロオロしながら菊丸は答えた。

「先輩っ!!ほら跡部だよ・・・氷帝テニス部の部長・・・・超有名っしょ」

「中坊のテニスなんか知るかよ!帰るぞ英二」

菊丸の手を掴むと歩き出した。

「先輩!そんなに引っ張ったら痛いにゃぁ」

「おい待てよテメー」

 

 

 

 

 

 

 

 

3-6教室前。

「なんスか急に来いなんて」

「ゴメン僕が行けば良かったんだけどね・・・・・やる事があったから来てもらっちゃった」

「・・・・・別にイイッスけど」

プリントをまとめながら不二は優しく微笑んだ。

「今日は久しぶりにどこか寄っていこうか」

「・・・・・・何処も寄らなくていいッス」

「そう・・・・・残念デートができると思ったのに」

「どうしたンスか今日変ですよ」

「・・・・ん?英二に毒されたんだよ・・・・・あ!そうだ。まだ間に合うかな・・・・」

「?」

「帰ろうか」

「うぃッス」

 

 

 

 

越前と並び校門近くで足を止めた

「クス。やってるやってる」

「何やってるんです菊丸先輩・・・・・あ。アレが甲斐性なしッスか?」

「うんそう。アハハ・・・・英二すごく僕に助け求めてる。心の叫びが聞こえてくるよ」

「・・・・・・不二先輩ってたまに怖いッスよね」

「もう少し様子を見てようか。跡部もどこまで頑張れるかな」

「オニ・・・・」

越前と2人。

楽しそうに菊丸たちのやり取りを見守っている不二。どこかワクワクしているようだった。

 

 

 

「お前年下のくせに″テメー″ってなんだよ」

「年下だの年上だのガキみてぇな事言ってんなテメーになんか付き合ってるヒマは無ぇ!さっさと菊丸を離せ」

腕を捕まれ、借りてきた猫のように大人しくなっている菊丸。何時切れるか・・・・と考えると菊丸は怖くて何もできない。

「菊丸・・・・・大丈夫だ」

ハッとした様に跡部を見た。

「・・・・・先輩ゴメン。今日跡部と約束してたから、俺・・・」

「こんな奴と俺とどっちが大切なんだよ」

菊丸の腕を掴んだ手に力が入いり、菊丸の眉が痛さでキュッと上がった。

「菊丸!」

半ば強引に引き離し片腕に菊丸をスッポリ包んだ。

「跡・・・・・部」

「悪かったな・・・・どこか痛かったとこはあったか?」

「ん~ん平気」

「英二!」

怒鳴りつけるような声に菊丸は肩をすくめて跡部にしがみつき目を背けた。

跡部も菊丸の肩を抱く手に力が入る。

 

「耳障りな声がすると思ったら先輩じゃないですか」

「不二?!」

ニッコリと何時もの笑顔の中に殺意にも似た空気を漂わせている。

「やぁ跡部久しぶり今日は雨の中英二のお迎えご苦労様・・・・」

「やぁじゃねーよなんだコイツは」

「英二の恋人。ま、僕は認めてないけどね」

「ふんっ!じゃぁ俺様の事は認めてるってことか?」

不二はニッコリ笑い跡部の肩をポンと叩き

「英二に手を上げるようなヤツよりはイイと思ってるけど・・・・・今後英二を泣かせたりしたらその時は容赦しないよ」

目を見開き笑顔もなかったが直ぐに笑顔に戻り越前とその場を後にした。

 

 

 

「不二先輩イイんスか?」

「何が?」

「いや・・・・・何がって。菊丸先輩ですよ」

「跡部がいるから大丈夫でしょ・・・・」

ニコニコと笑いながら不二は越前の肩を抱いて自分の頭をコツンと越前の頭にぶつけた。

 

「なんか不二先輩って菊丸先輩の事・・・・・・」

「何?ヤキモチ?英二は弟みたいにほっとけない大切な・・・・親友なんだよ・・・・・・・・ね。今からうち来ない?」

「・・・・・初めからそのつもりですけど」

「そ。でも本当世話がかかる弟だよ英二は・・・・跡部がわざわざあんなとこ走るはずないじゃない?クスクス」

「え?じゃ、まさか不二先輩が」

「どうだろうね」

「アイツの事認めてるんスね」

「さっき言った通りだよ」

 

 

 

 

 

「・・・・場所変えるぞ」

「ちょっと待てよ!」

跡部はそんな声聞こえないかのようにスタスタ歩いて先輩に背を向け、跡部に肩を抱かれていた菊丸も後ろを振り向きながらもその場を後にするしかなかった。

「俺様は場所を変えるって言ったんだ!ついて来い」

「あ・・・・跡部?」

菊丸の肩を抱きながら学校を後にする。

先輩も渋々跡部の後についてきた。

「菊丸・・・・話つけるぞ!俺様もよくココまで辛抱したと自分でも感心するぜ」

「跡部・・・・・でも」

「でもじゃねぇ」

「でも・・・・・・」

「怒るぞ!菊丸はアイツが好きなのか好きじゃないのか!俺を好きなのか好きじゃないのか!それだけだ」

真っ直ぐ菊丸を見る目が鋭く熱く突き刺さる。

「跡部が・・・・・好き」

ポツリと小声で言った

「ん。俺も好きだ・・・・・・」

そう言って菊丸を抱き寄せおでこにキスをした。

「ちょっ!!跡部先輩の前で何てことすんだよ」

「イイじゃねぇーか別に傘に隠れて見えねーよ」

そんなやり取りを後ろから見ていた先輩は今にも2人に殴りかからんばかりに拳を握り締めていた。

「い~んだぜかかってきても」

そんな先輩を挑発する跡部。

「何言ってるの跡部!止めてよ先輩。そんな事したら」

「・・・・・全国への切符が無くなるって?氷帝の跡部だか何だか知らねーけどいい加減英二から離れろ」

「俺様に命令するなんて10年早ぇんだよ」

「もぅ止めてよ2人とも・・・・・」

半ば半ベソ状態な菊丸をよそに跡部と先輩の間には火花が散っている。コレもソレも菊丸本人が原因。

学校から離れ3人は中学生がこんな所に入って良いのか?といういかにも高級そうな店に来ていた。店内は静かでクラッシックが流れている雰囲気の良い店。

勿論跡部財閥の所有する店。

店内に入るや否や支配人らしき人物が近づいてきて一番奥の個室に案内してくれた。

「ごゆっくり」

「コーヒー2つにミルクティ」

「はい承知しました」

菊丸はあっけにとられ開いた口が塞がらない。跡部にしたら日常茶飯事の事だろうけど菊丸達にとってはこんな高級な店でお茶。しかも大の大人をアゴで使ってしまう跡部。

運ばれてきたコーヒーを一口飲むと跡部は先輩に向かって話し始めた。

「お前と菊丸が恋人ごっこをしてるのは知ってる」

「ごっこじゃねーよ恋人なんだよ」

「じゃぁなんで菊丸を信じてやれなかったんだよ」

既に過去形に話を進める跡部。ハラハラしながら菊丸は聞いているしかなかった。

「信じられっかよ誰にでもベタベタ抱きつきやがって」

「そーそれは!!」

「信じられなくなった時点で恋人失格なんだよ」

初めて跡部の部屋に行った時に菊丸に言ったセリフ。

「うるせーなコレが英二と俺のスタイルなんだよ。でもな本当に本気でもう信じてやれねーな。お前なんかと浮気してたんだからな!英二もうこいつと話なんてねぇ!帰るぞ。早くこっち来ないとどうなるか分ってんだろ」

菊丸の肩が一瞬ビクッとして表情が強張った。

「跡部・・・・俺・・・・ごめんね」

「菊丸は返さない今ハッキリ言ったな「信じてやれねー」って信じられないなら信じれる奴を探すんだな・・・それにお前菊丸に何するつもりなんだよ菊丸は所有物じゃねぇ力で言う事きかせてもそれはテメーの自己満足だろ」

「もう!!イイよ。跡部も先輩も止めよう!俺先輩と帰るから!」

先輩が跡部に殴りかかろうとして立ち上がったのを菊丸のその一言が先輩の行動を止め、話も終わってしまった。

 

後に残された跡部。

そして先輩を選び一緒に帰った菊丸。

 

 

 

 

 

「結局菊丸を助けてやれねーのかよ俺は・・・・・」

外に出た跡部は傘もささずに歩き出した。

 

 

 

 

 

「!!」

「どうしたんスか?」

「なんでもないよ・・・・ゴメン」

「・・・・・・」

菊丸先輩の事考えてたんスね・・・

越前は思い胸の奥がチクリと痛んだ。

英二・・・・何かあった?

不二は不安な顔を隠せないでいた・・・・。

「不二先輩俺菊丸先輩の代わりにはなれないッス」

「ゴメン越前そんなんじゃないから」

「俺の永遠のライバルって菊丸先輩なんスかねぇ・・・・不二先輩の菊丸心配病は」

「あのね・・・・・」

 

 

 

先輩の部屋に入った菊丸は怯えた声で話しかけた

「先輩・・・・」

振り向きざまに菊丸の頬を殴り

「許されねーよな」

と、感情むき出しに先輩は罵声を浴びせる。

「ごめんね先輩・・・俺先輩の事好きじゃなかった・・・・・ずっと・・・・ずっと前から跡部が好き。もっと早く気付いてればこんな風にならなかった本当にゴメンなさい」

菊丸の目から大粒の涙が零れ落ちる

そんな菊丸を散々殴った後先輩は菊丸を抱きしめた

「俺は・・・・俺は英二が好きなんだ!誰にも渡すことなんかできない・・・ゴメン。ゴメンないつも英二をこんなに殴って・・・でも俺は本当に英二が好きなんだ・・・・俺を1人にしないでくれ・・・もう殴ったりしないから」

「跡部も言ってた・・・・信じられなくなったら終わりだって・・・俺先輩のその言葉も信じられない・・・だからゴメン。もう一緒にいられない・・・ゴメンね・・・さよなら」

菊丸は家を出ると無我夢中で走り出した。

何処を走っているのか、何処まで走ったのかは自分でも分らない。気付くと跡部の家の前。

「跡部・・・・跡部ぇぇ」

泣きながら座り込み携帯を取り出し電話をかけた。

ソファーに座り頭を抱えながら菊丸の事を考えていた

Rururu・・・・

携帯に出るとすすり泣く菊丸の声。

「どうしたんだ菊丸」

『跡部ぇ・・・・跡部ぇ逢いたいの今すぐ・・・跡部に・・・触れたいの』

「何処にいるんだ?迎えに行く」

『門の前』

跡部は電話を放り投げ外に飛び出し門に向かって全力で走った。

「菊丸!!」

泣きじゃくりながら門の前に座り込んでいる菊丸を跡部もそのまま抱きしめた。

そしてゆっくり立ち上がらせまた強く抱きしめた。

「菊丸・・・」

「跡部・・・俺ね先輩と別れてきた。ゴメンね少しの間でも嫌な思いさせて」

「まったくだ!この俺様を少しの間でもフッたんだからな」

 

 

ずぶ濡れになった菊丸を家に入れ浴室に連れて行く。

「俺の部屋はそこの階段を上がって突き当たりだ」

「・・・・・絶対迷子になる!30分たったら迎えに来て」

「・・・・・分った」

流石の跡部も上目遣いの菊丸に敵うハズもなく。

30分後に迎えに来るハメになった。

 

 

 

30分後 ――――― 。

浴室に迎えに行くとダブダブの跡部の服を着た菊丸が目に飛び込んできた。

思わず抱きしめてしまう。

「跡部?」

「ちゃんと温まったか?」

「うん」

跡部とは思えないほどの優しい口調。いつも俺様なのに

 

 

 

部屋に入るとテーブルには普段菊丸の口には入らないようなお菓子が並び入れたてだろうと思われるミルクティが置いてあった。

「跡部が入れたの?」

「悪いか?」

「んーん嬉しい」

ソファーにちょこんと座り並べてあるお菓子に手をつけ跡部が入れたお茶を飲む。

「菊丸・・・」

菊丸の傷ついた口元にそっと手を触れた。

「やっぱりあのままお前を帰すんじゃなかった」

「大丈夫だよこんなの・・・・直ぐに治るしもうこんな風にならないもん・・・・跡部は殴ったりしないでしょ」

ニッコリ笑って跡部の肩にもたれる。

「俺ねずっと跡部が好きだったのに気付かないで・・・・」

菊丸の言葉をさえぎるように跡部の唇が菊丸の口を塞いだ。

「そんなの知ってるから黙ってろ」

そう言ってまた菊丸の口を塞ぐとそのまま抱き上げ大切にベッドへ運んだ。

互いの首に腕を絡ませ深く口づける。

「ん、ふっ・・・・・」

跡部は耳や首筋を柔らかく噛んだ。

菊丸は跡部の熱い吐息を感じながら溜息のような甘い声を漏らす。

そうして跡部は菊丸の足を開かせると一気に貫いていった。

「はあ・・・・あああ!」

声を殺そうとしても菊丸の声が部屋に響く。

「バカ我慢しなくて良いんだぜ・・・・菊丸の声をもっと聞かせろ」

「跡部・・・・はあ・・・・好き」

「知ってるよそんな事」

 

 

 

跡部の腕の中で規則正しい菊丸の寝息が聞こえる。

菊丸のまぶたにそっとキスをし跡部も目を閉じた。

 



あとがき

どうにかこうにか終わりました
浮気
って言うより
本気
ですが・・・・・
まぁイイって事で^^;
リョーマと不二のお話は妄想してくれると嬉しいですV