PASSION

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと出掛けてくるからー!夕飯いらなーい」

菊丸は学校から帰って来た早々家を飛び出し隣町にあるコンビニに向かっていた。

「急がないと・・・・」

ハァハァと息を切らせダッシュする。 ようやくコンビニに着くと菊丸はバックヤードに入って行った。

「おはようございまーす」

「よう!菊丸今日もギリギリだな」

菊丸は屈託のない笑顔で舌を出すと『間に合ったんだからいいの』とコンビニの制服を羽織った。

「菊丸って青学だっけ?俺の友達も青学なんだけど金谷って知ってるか?」

「え?えーと・・・・・知らにゃい」

てか高等部の奴なんて知らないよと内心思い、菊丸は苦笑いをした。

「そんな事より仕事しないとね。サボってるとグラウンド走らされちゃうもんね」

「はぁ?何言ってんのお前」

「とにかく仕事すんの」

菊丸は口を尖らせプクッと頬を膨らませた。

週に3日。菊丸はコンビニでバイトをしていた。九月も下旬。来月は愛する手塚の誕生日。お小遣で何か買おうと思ったけど、それって結局親のお金だし、だから歳をごまかしてでも自分で稼いでそのお金で何かを買ってやりたいって思っていた。

 

わざわざ隣街のコンビニを選んだのも学校の皆にバレない為。中学生が夜にこんなトコまで来るなんて無い。と菊丸は考えていた・・・・・・・が、その考えは甘かった。バイトを始めて一時間ほどたった頃一人の顔見知りが店に入ってきた。

「いらっしゃいま…て、手塚?」

「菊丸?!お前いったい何をしているんだ」

「うぅぅぅ」

手塚は菊丸の前に立つと眉間に皺を寄せ腕を組んでいた。

菊丸は肩をすくめキュッと目を閉じた。

「おい 菊丸・・・・誰コイツ」

と一緒に働いていた一人が声をかけたが菊丸はただ黙って手塚の前で小さくなっていた。

「・・・・・学校の先生か?」

「菊丸!!」

「ごめんなさい!

「申し訳ありませんが 店長を呼んでいただけますか」

手塚はもう一人の店員にそう言うと菊丸の手を引き店の外に出た。

「中学生がバイトなどして良いと思っているのか?」

「ううん・・・・ダメ」

「分かっているなら・・・」

言いかけるとそこに店長らしき人物が慌てた様子でやってきた。

「菊丸くんどうしたんだい?・・・ぁぁ学校の先生ですか?」

「・・・・・・いや同級生です」

深くため息をつくと手塚は菊丸に自分から店長に訳を言って謝るように言った

「ごめんなさい・・・オレ本当は中学生でした」

「・・・・ぁぁそうだったんだ。菊丸くんみたいな子めったにいないから喜んでたのになぁ 中学生じゃ・・・仕方ないね・・・・」

「本当にごめんなさい・・・・・」

瞳いっぱいに涙をためて菊丸は店長に謝りその日はそのまま手塚と一緒に帰る事にした。

途中手塚は菊丸の手を握りただ黙って歩いていた。

「手塚・・・・・ごめんね」

「何でバイトなんか・・・・?」

「お金が欲しかったの。親から貰うんじゃなくて、自分のお金が欲しかったの」

「それでもやってはいけない事だったろう。店長にも迷惑がかかってしまった」

うん と頷いて菊丸はポロポロと大粒の涙を零していた。いつも2人で立ち寄る公園。

手塚は菊丸をベンチに座らせると、膝をついて菊丸の前に座った。

「もう泣くな・・・・泣かないでくれ 怒っていないから」

菊丸の涙を拭う手塚。

「ごめんなさい・・・・」

小さく震える菊丸を強く抱きしめた。

手で顔を包んでもう一度涙を拭う。そして口付けた。

「笑顔を見せてくれないか?このままじゃお前と離れられない」

「・・・・手・・・・塚・・・・・・離れたくないから・・・・・笑わにゃい」

コツンとおでこにおでこを当てた。

「困らせるな」

泣き顔だった菊丸に笑みがこぼれた。

「ん。ごめんね手塚・・・・もう大丈夫。また明日学校でにゃ」

手を振って菊丸は家へと走って行った。

菊丸の姿が見えなくなるまで見送った後、手塚もその場を後にした。

 

 

 

 

今日は朝から手塚の周りには女の子達が群がっていた。眉間の皺もMAXにして青い顔。
きっともう限界。

『オレの手塚は人気者。かっこいいし、頭も良いし、堅物そうに見えて実はすっごく優しい。テニスだってプロ顔負けのプレイヤー!女の子達には悪いけど、手塚はプレゼントを受け取らないよ』そんな風に心で呟いて菊丸は手塚に抱きつく。

「てーづーかぁ!!救世主登場〜!!」

手塚はよろめきもしないで菊丸を抱きとめた。

「急に飛びついてきたら危ないではないか」

「お誕生日おめっとさん!いいものあげるにゃ〜だから行こう」

『ちょっと優越感。ちょっと意地悪なオレ。女の子達から手塚を救ってちょっと勇者気取り。』

「待ちなさいよ菊丸くん!!」

女の子達の非難の声を聞かないフリをして手塚を連れ出した。

「メンゴ メンゴ。手塚は今からオレの貸切なんだぁ!残念 無念また来〜年てね。ほいほーいどいて どいてー」

手塚の腕を引いて軽く走る。テニス部の部室の前まで来て菊丸は足を止めた。

「みんな おまたへ〜」

部室のドアを開けて手塚を招き入れる。

「手塚早く中入って」

「・・・・・・・!?」

「先輩!誕生日おめでとうございます」

「手塚早くコッチ来てロウソクの灯消して」

照れくさそうに目を伏せながらロウソクの灯を消した手塚を見て可愛いと菊丸は思った。

「ねね 手塚!このケーキオレが焼いたの!!一番に食べて」

そう言ってケーキにナイフを入れた。その間に12年からのプレゼントと同級生からのプレゼントを渡された。キョトンとした目をした手塚をまた可愛いって思った。

12年は部活があるので皆での誕生会は30分程度で終わった。乾と大石は少し打っていくと桃城や越前達とコートに行ってしまった。河村は家の手伝いと足早に帰って。

不二は『裕太が帰って来るんだ』と帰ったは良かったが、菊丸の顔をチラッて見て意地悪く笑い手塚のホッペにキス!いくら不二でも許さない!!絶対仕返ししてやる!! と菊丸は思っていたが、万倍になって返ってくるのは必然。泣き寝入りするしかなかった・・・・・・・

フウ。。。。。小さくため息をして菊丸は気を取り直した!

「帰ろっか・・・・」

「あぁ」

今日から3泊4日で菊丸は手塚の家にお泊りする事になっている。大きな荷物を持って手塚と手をつないで手塚の家に帰った。

 

 

 

 

 

手塚の家に着くと手塚の母親が菊丸にもお帰り。と笑って言ってくれた。そう!菊丸と手塚の関係を手塚の母親は知っていた。初めて手塚の家に来た時に手塚の表情などで分かったのだ。流石母親。

「ね・・・手塚 一昨日ね店長から電話あったんだ。働いた分は給料くれるんだって」

「そうか・・・・」

「だからね 今から取りに行きたいから付き合って」

「分かった・・・・・では出かけよう」

着替え終わってすぐ菊丸と手塚は働いてたコンビニに向かった。手塚は何のためらいもなく菊丸の手をとって歩いてくれる。中3の男子が手をつないで歩いてるの見たら周りはきっと怪しむのに、そんな事手塚は気にしてなかった。勿論菊丸も気にしてない様だった。

いろんな話をしながらゆっくり歩いた。一人で走って来てた時はずいぶん遠いなぁ・・・・

と感じていた菊丸だったが、手塚と2人での道のりは凄く近いと思っていた。

コンビニの中に2人で入る。流石に手塚は手を離して菊丸の後ろからついてきた。

中にはいつも菊丸とシフトが同じだった者が仕事してた。

「お久・・・・店長いる?」

「菊丸じゃねーか!どうしたんだよ急に辞めちまって・・・・・」

「・・・・・・・ん。ちょっとね」

苦笑いをして菊丸はバックヤードに入っていった。

「店長〜 わざわざ電話有り難うございました」

「菊丸くん・・・・はい ご苦労様」

そう言って店長は給料が入っている封筒を菊丸に手渡した。生まれて初めての給料。

菊丸はとっても嬉しかった。

「高校生になったら ココで働いてくれるかな?待ってるからね 菊丸くん」

「はい 有り難うございます。それじゃ・・・・・」

給料の入った封筒をポケットに入れて手塚が待つ店内に向かった。

「手塚〜おまたへ・・・・・」

「もう良いのか?」

「うん もう良い。じゃまたにゃ」

何か手塚との様子が変・・・・・と思った瞬間、何を思ったのか手塚は菊丸の肩を抱き寄せそのまま店を出た。

「にゃ?どったの手塚・・・・嬉しいけど・・・」

「・・・・・・菊丸を誰かに盗られてしまうのではないかと考えたら・・・・」

「変な手塚・・・・オレは手塚のなの。他の誰のモノにもならないにゃぁ」

手塚の胸に手を回してギュッっと抱きしめた。 

 

 

 

「ね手塚・・・・このお金でね何かプレゼントしたいの何が欲しい?」

「欲しいものなんか何も無い・・・・菊丸が俺の傍にいれば何もいらない」

「そんな事言わないで・・・・オレ手塚の誕生日プレゼント買うためにバイトしたんだぞぉ」

「・・・・・・俺のため?」

「そそ・・・・手塚のため!」

「ありがとう・・・」

手塚と2人夜の街を歩いた。しばらく歩いていくと一軒のアクセサリーショップがあり、2人は中に入ってペアのペンダントを買った。

手塚の母親に8時までには戻ってと言われたからその後は何処にも寄らないで家に帰った。帰ると父親も帰って来ていて手塚の家族と菊丸の5人で誕生日パーティーが始められた。和食の中に一品だけ洋食のおかずが混ざっている。菊丸のために作ったと思われる菊丸の好物。手塚が一番にお皿に取って菊丸の目の前に置いてくれた。大きなエビフライ。

 

 

もうすぐ今日が終る。

来年も再来年も。この先もずっとお祝いさせてね とキスをした。

来年も再来年も。この先もずっと祝ってくれ とキスをした。

大好きなこの人に心を込めてHappy Birthday と今日最後のキスをした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Happy Birthday