こんな奇跡の物語

 

 

にゃ?ここは・・・どこ?

空が一面に見える。背中には地面のような硬い感触・・・・。

俺・・・ひょっとして外で倒れてる?

 

「お兄ちゃん・・・・大丈夫?」

 

その声でぼんやりしていた意識が一気に覚醒する。

起き上がると、そこには心配そうに俺を見ている小さな男の子がいた。

「ここ・・・どこ?」

男の子に訪ねる。

「公園だよ。お兄ちゃん、倒れてたよ」

倒れてた?・・・俺何してたんだっけ?

ゆっくり立ち上がり、制服についた砂をほろいながら考える。

そうだ。思い出した。部活が終わってから・・・手塚とケンカしたんだ。

ここ最近、手塚は何かと忙しくて、ほとんど会話もしてなくて。

やっと今日一緒に帰れるって言うから、嬉しくてすごく楽しみにしてたのに、また用事が入って駄目になって。・・・・・思い出したらなんだかムカついてきた・・・。

そしてその後、あんまりムカついてダッシュで部室を出て・・・・思いっきり走ってたら桃が自転車で横から突然現れて・・・ぶつかったんだっけ?

よく思い出せない。・・・どうやってこの公園に来たんだろう?

とにかくこの公園は知ってるからとりあえず家に帰るか・・・。

「キミ、心配してくれてありがとね。もう平気だから、キミもそろそろお家に帰らないと

 お母さんが心配するよ。もう6時だよ」

俺は男の子に言った。

「僕、お家には帰らない。お兄ちゃんは帰っていいよ」

男の子は淋しそうに言った。

ちょっとワケあり?・・・・はは〜ん、さては・・・

「お母さんに怒られて家を飛び出してきたにゃ〜?」

これくらいの年頃だったらよくある事だよな〜。

すると男の子の目にみるみる涙が溜まる。・・・しまった、かな?

「お母さんじゃない・・・おじいちゃんだもん」

男の子の目から大粒の涙がポロポロこぼれる。

「あ、男の子が泣いちゃだめだぞ!泣くにゃー!」

うーん困った。どうしようかな。このまま帰るわけにはいかない…。

そうだ、ラケットがあった。今日新品のと交換して古いやつを持って来たんだ。

どうせもうこのラケット使わないし、これで遊んで元気出してもらうしかない!

おれ自身このまま家に帰って手塚の事を悶々と考えるよりも、その方が絶対にいい。

「ジャーン!見て!ラケットだよん。これでお兄ちゃんと遊ぼう!」

「・・・それ・・・何?」

「えー?ラケット知らないの?テニスだよ」

「知らない」

「面白いんだゾー。教えてあげる。えーっとボール…あ、あの落ちてるのでいいか」

誰かが忘れてった小さいカラーボールがあった。

うん。子供用でやわらかいし、ちょうどいいや。

「ほい。ラケット。右手で持って」

男の子は涙をふいてラケットを持った。

「これで何するの?」

「今からお兄ちゃんがこのボール投げるからそのラケットで打ち返して」

そうして俺達はテニスを始めた。

男の子はボールを打ち返すのが楽しいらしく、すぐに笑顔になった。

見れば見るほど手塚に似ててなんだかとっても可愛い。

しかものみ込みが早くてどんどん上手になるところも手塚っぽい。

 

今日は手塚に悪い事しちゃったかな。用事が入ったのは手塚のせいじゃなかったし。

それなのに感情むき出しで怒っちゃって・・・・俺ももう少し大人にならないとにゃー・・・・

男の子がテニスをする姿を見ながらしばらく反省モードに入った俺。

 

 

そうしてしばらく男の子とテニスで遊んでいると遠くの方で声がした。

「・・・光―!どこにいるの―?」

きっとこの子のお母さんだ。心配して探しに来たんだ。

男の子もその声に気がついたらしく

「あっお母さんだ!」

と嬉しそうに言った。さっきまでのいじけ顔はどこへやら・・・やれやれ。

「お母さん迎えに来てくれて良かったにゃ。おじいちゃんもきっともう怒ってないよ。

 一緒にお家帰りなよ」

「うん。ありがとうお兄ちゃん。テニスとっても面白かった。またやりたい」

「そう?良かったー。じゃちょっと古いけど、そのラケットあげるよ」

「本当?!いいの?ありがとう」

―あぁ手塚が笑うとこんな感じなのかな?超かわいい・・・・・。

「キミ、きっとテニスが上手くなるよ」

 

「国光、まぁこんなところにいたの?心配したのよ。一緒に帰りましょう」

―え?今何て言った?・・・・国光って・・・・?

「お母さん、このラケットお兄ちゃんがくれるって。テニスを教えてもらったんだよ

 面白かった」

「まぁ、遊んでいただいてありがとうございました。・・・あの・・・ラケットは・・・」

「あ・・・もう使わないラケットだったので・・・・これで良ければ・・・」

「すみません、ありがとうございます・・・・」

申し訳なさそうに男の子のお母さんが頭を下げた。

俺は少し頭が混乱していた。この男の子って・・・手塚?・・・なワケないよね?

「お兄ちゃんまたテニスしようね!」

「うん。しよう。・・・あ、最後に名前教えてくれない?」

「僕 手塚国光」

!!――――やっぱり手塚だ!・・・・間違いない。

・・・・でもこれは一体どういう事なんだ??

「じゃあまたね!お兄ちゃんテニス教えてくれてありがとう」

そう言って男の子・・・・手塚はお母さんと一緒に帰って行った。

俺は頭の中で必死に考える。

そういえばこの公園・・・・かなり新しい。俺が知ってるのはっもう少し古くて・・・。

これってひょっとしてタイムスリップってヤツ??・・・・・まさか・・・ね?

でも、もしそうだとしたら・・・俺の家にも小さな俺がいるって事?

「確かめなきゃ!」

俺は自分の家に行って、小さい自分がいるかどうか確認しようと思った。

ダッシュで公園を走り出る。

その時一台のトラックがこっちに向かって走ってくるのが見えた。

げ!!マジ?!うわーっぶつかるーー!!

 

 

「・・・丸・・・菊丸!!」

・・・・俺を呼んでいるのは誰?

「・・・手塚・・・?」

目を開けると心配そうな手塚の顔がぼんやりと見える。ここは・・・学校の保健室?

「気分はどうだ?どこか体で痛いところはあるか?」

「ううん・・・大丈夫」

     ・・・こんな心配そうな手塚の顔・・・初めて見るかも。一体何があったの?

「英二先輩大丈夫ッスか?!・・・意識が戻って良かったー!!」

「桃・・・?」

「俺の自転車と衝突しちゃって先輩ずっと倒れたままだったんスよ」

――あぁ、そうだった。やっぱりあの時、桃とぶつかってたんだ。

じゃぁ・・・今のは夢?あの小さな手塚は・・・・。

「桃城、竜崎先生に菊丸が目を覚ました事を伝えに行ってくれ。病院の方に連絡する前に

 言わないと・・・」

「はいっわかりました。行ってきます」

桃は荒てて保健室から出て行った。

俺はゆっくり起き上がろうとしたけど手塚に止められた。

「まだ横になってろ。保険医がいないから竜崎先生に見てもらってから動いた方がいい。

 頭を打ったみたいだからな」

そう言って手塚は俺の頭をそっとなでた。

「・・・手塚心配した?」

「あたり前だ」

「へへへ・・・不謹慎だけどちょっと嬉しいかも。俺手塚にもっとかまってほしいみたい。

 子供っぽいよね。手塚が悪いわけじゃないのに、いつもどうしようもない事で一人で

 怒って・・・ごめんにゃ」

俺がそう言うと手塚は少し微笑んで、それから頬にキスをしてくれた。

――― 手塚・・・大好き ―――

 

 

「ねー手塚、聞きたい事があるんだけど ――――――」

 

あの後、竜崎先生にOKをもらって結局手塚と一緒に帰る事になった俺は、どうしてもあの男の子の事が夢とは思えなくて聞いてみる事にした。

 

「何だ?」

「手塚っていつからテニスやり始めたの?きっかけは何だった?」

「どうして急にそんな事聞くんだ?」

「だって知りたいんだもーん。ね教えて」

「・・・小学一年生の頃、公園で知らない中学生にテニスを教えてもらった事があって・・・・

 それがきっかけだな」

手塚の言葉に心臓がドクンと脈打った。

「・・・・・その中学生から・・・何かもらったりした?」

「あぁ、ラケットをもらった。今もそれは大事にとってある・・・けど

どうして知ってるんだ?」

 

やっぱり夢じゃなかった ――――― あの子は・・・手塚だったんだ!!

 

「すごーい!!タイムスリップじゃん!やっぱりな〜!!夢じゃなかったんだよ」

「・・・菊丸・・・?」

「小さい頃の手塚って子供らしくて超かわいかったよー。こんな事ってあるんだにゃー」

「会話が見えない・・・お前やっぱり頭の打ちどころが悪かったんじゃないか?

 ちゃんと病院に行って調べてもらった方がいいかもしれないぞ」

「あ!何それ。ひどいにゃ。俺はどこもわるくないよ。きっかけは俺だったって事!」

「・・・お前・・・やっぱり変だぞ?」

こんな話誰に言ってもきっと信じてくれないだろうな。

でもいいんだ。小さな手塚に会えたのは事実だっだんだから.俺の胸の中に秘めておこう

 

――― こんな奇跡の物語。

 

 

あとがき
こんな話で、期待を裏切ってしまったらスミマセンm(-_-)m精進します。