『桜の木の下で・・・・』

「手塚・・・・・俺ね、手塚の事・・・・好きなんだ・・・・・手塚の恋人になりたい・・・・」
 

2年生になったばかりの春、俺は手塚に告白した。
桜の木の下で立ち止まり、少し驚いたように俺を見つめていた手塚は、眩しいくらい綺麗だった ーーーーー。
 

手塚を好きになったのはいつだったのか覚えてはいないけど、気がつくといつも手塚を目で追っている自分がいた。
同じ部だからたまに会話はしていたけど、すごく親しい仲というわけではなくて・・・・・。
手塚はズバ抜けてテニスが上手かったし自分の中で一目置いている存在というか・・・・・憧れてる存在というか・・・・
とにかくそんな感じなんだとずっと思ってた。
でも何となく・・・・・・目が合う回数が増えてるような気がして・・・・・
そりゃ俺が手塚を必要以上に目で追ってるんだから当然なんだけど、ふと視線を感じて見るとそこに必ず手塚がいて。
なんだかそれが偶然ではないような気がして変にドキドキして意識している自分がいた。
手塚の方からたまに話しかけられたりすると、やけに緊張して顔が熱くなって・・・・・でもそれがとっても嬉しい事だったり・・・・

あぁ、俺って手塚のことが好きなんだ------。

やっと自分の気持ちに気がついたのは1年生の終わり頃だった。

「・・・・菊丸・・・・・俺もお前の事が好きなのかもしれない。・・・・・でも自分でもよくわからないんだ
 今は部の事でいろいろやらなければいけない事が多いし、あまり気持ちに余裕がないからかもしれない・・・・
 だから何て返事をしたらいいのかも・・・・わからないんだ」

これが俺の告白の・・・・・手塚からの返事。

手塚の言っている事はすぐ理解できた。
手塚は次期部長に決まっていて俺たちの数倍はやる事が多かった。
そんな時に恋愛にうつつを抜かしてる場合じゃないのもわかる。

でも俺は確かめたかったんだ。
手塚の気持ちを。
どうしても伝えておきたかったんだ。
自分の気持ちを・・・・・。


手塚の返事を聞いてホッとしている自分がいた。
だって拒絶されなかったから。
それどころか「好きかもしれない」って言ってくれた。
俺も手塚への気持ちを自覚するまで一年かかったんだ。
手塚だってもっと時間が必要かもしれない。だったら・・・・・・・・

「待つよ、俺」
「・・・・・え?」
手塚は驚いたように俺を見つめた。
「手塚が部長になって落ち着いて、俺のことが本当に好きかどうか答えが出るまで待つから」
「菊丸・・・・・」
「そうだなーー・・・・じゃあ来年の今日と同じ日に・・・この場所で返事を聞くのってどう?
 一年あればじっくり考えられそうじゃない?・・・・・・まぁ無理矢理答えを出さなくてもいいけど、来年もう一度返事を聞かせて?」
ーーーーーーーしばらくの沈黙の後、
「・・・・あぁ、わかった」
と手塚は答えてくれた。

あれからもう一年も経ったんだなぁ・・・・・
俺は去年と同じこの公園の桜の木の下にいる。
なんだか告白したのがもうずっと昔の事のような気がするな・・・・・
あの後、俺達の間は何も変わらなかった。
手塚は部長になって、部も今はいい感じにまとまってる。
あの時手塚に「待ってるから」と言った自分は間違ってなかった。と思えるけど・・・・・
「・・・・・・手塚今日の約束覚えてるかにゃ・・・・・」
なんとなく不安になっている自分がいる。

ふわっと暖かい風が吹き、桜の花びらがひらひらと舞う。
いつもなら綺麗で感動する風景なのに、今は目に映る桜の花びらが切なく感じる。
今日の部活の時の手塚はいつもと全く変わらない様子だった。
やっぱり手塚は一年前の約束をもう忘れてしまっているのかもしれない。
この場所に来てから一時間が過ぎようとしていた。

「もうすぐ日が暮れちゃうよ・・・・手塚、早く来て・・・・・・」

その時待ちわびた声が聞こえた。
「待たせたな」
ハッと息をのむ。声の方を見ると手塚がいた。
「手塚・・・・来てくれたんだ」
忘れてなかった。覚えててくれたんだ。
「菊丸の方が忘れてるんじゃないかと思ってたぞ・・・・・・俺は」
「忘れないよ・・・・俺が決めた約束だもん」
俺は信じられない気持ちと、手塚が来てくれた嬉しさで胸がいっぱいになった。

「一年前の返事をしに来た」
少しの沈黙の後、手塚が静かに言った。
「・・・・・・うん・・・・・」
「あの時、俺はまだ自分の気持ちを整理する事が出来なかった。
 でもこの一年でわかったのは・・・・やっぱり俺は菊丸が好きだという事だ。ずいぶん待たせてしまったが・・・・・・
 菊丸・・・・お前の気持ちはまだ変わってないか?」

手塚の言葉を聞きながら、ひょっとしたらこれは夢かもしれないと思ってる自分がいた。
こんな言葉を手塚から聞けるなんて思ってもみなかったから・・・・・・

「俺の気持ちは変わってないよ。全然・・・・変わらない」
言いながら目から自然に涙が出てきてしまった。
「菊丸・・・・・」
「ごめん・・・・嬉しくて泣けてきちゃった・・・・へへ」
次の瞬間ふわっと手塚の胸に引き寄せられた。
ぎこちなく、でも優しく・・・・手塚が抱きしめてくれた。
「好きだ、菊丸」
俺はそっと手塚の背中に手を回した。
「俺も大好きだよ、手塚・・・・・」





「・・・・・・・ねぇ、キスしようよ」
手塚と手を繋いだままピッタリ寄り添ってベンチに座っていた俺はふと思いたって言ってみた。
「な・・・・何だ急に・・・」
手塚が驚いて動揺している。こんな手塚を見るのは初めてかも。
「だってさ、幸せすぎてひょっとしたらこれは全部夢なんじゃないかって思えてきて・・・・。もし夢だったら嫌だけど
 覚めてしまう前にキスだけでもしたいなーと思ってさ」
言いながら俺は手塚の腕に手を回した。
「夢じゃないぞ。これは現実だから・・・・・そんな心配する事ない」
手塚が少し慌てたように言った。
「・・・・・手塚・・・・俺とキスするの嫌?」
「嫌な訳じゃないが・・・」
手塚の言葉を遮るように俺は手塚にキスをした。
「菊・・・・丸・・・」
手塚の顔がみるみる赤くなった。
こんな手塚を見るのも初めてだ。
俺はもう一度手塚にキスをした。
手塚が赤い顔をして戸惑うのが何だかすごく可愛く思えてきて、俺はいっぱいいっぱい手塚にキスをした。

「・・・怒ってるの?手塚・・・・」
すっかり日も暮れて街に明かりが灯っていた。
俺と手塚は手を繋いで歩いていたけど、手塚がずっと無言だったからちょっとやりすぎたかな?と反省した。
「ごめんね。もうキスするのやめる。絶対しないから。許して、手塚」
手塚の顔色を伺いながら俺は謝った。
辺りはもう薄暗かったから手塚の表情はよく見えなかったけど、手塚は前を見たまま恥かしそうに小さい声で
「別にキスされたのが嫌だったわけじゃないし怒ってもいない・・・・・
 時と場所を考えた方がいいとは思うが・・・・」
と言った。
こんな手塚も初めて見る。何だかそれは俺だけの特権のような気がして嬉しくなった。
「ほーい!じゃこれからは時と場所を考えてからいっぱいキスするね?」
そう言って俺は手塚のほっぺにキスをした。
「菊丸・・・・俺の言ってる意味・・・理解していないだろう?・・・・・」
「理解してるよん。大丈夫?」

明日もあさっても一週間後も一年後もこうして手塚と手を繋いでいたい。
ずっとずっとーーーーーーーー


あとがき
フフフ・・・・
ひそかになんとなーく菊塚っぽい気もするでしょ?(ムリヤリ)
・・・・・・・・・精進します・・・・・・・・・・(泣)