未熟な恋の物語

 

 

オレ手塚国光は今、人生最大のピンチを迎えている。

好きで好きでたまらない菊丸英二が不二と付き合うかもしれないと風の噂で聞いたのだ。

風の噂と言うより、不二本人に聞いたのだが・・・・。

マズイ。非常にマズイ。

中学を卒業するまで更に男を磨き上げて、卒業式の日に菊丸に告白し、HappySweetな高校生活を送るという未来予想図を描いていたのに、このままでは叶わぬ夢となってしまう。

どうしたらいいものか・・・・・。

 

「て~づか!どうしたの?難しい顔しちゃって~」

ふわっと後ろからやわらかく抱きついてきた菊丸の存在で俺は我に返った。

菊丸の香りがする。いい香りだ。

いつまでもこの香りに包まれていたい・・・・・。

「何か嫌な事でもあった?」

後ろから頬をくっつけて聞いてくる菊丸。

・・・・畜生・・・・どうしてこんなに可愛いんだ・・・・・たまらないぜ・・・・。

「いや・・・・・少し考え事をしていただけだ」

「そうなんだ。もし悩みとかあったら遠慮しないで言ってね。俺が・・・・」

その時菊丸の言葉を遮るように部室のドアが開いた。

「英二ここにいたんだ。探したんだよ。乾と海堂がダブルスの練習試合をしたいって

 言っててさ。僕と英二に相手になってほしいんだって」

そう言うと不二は穏やかに微笑みながら俺達の方へと歩いてきて、

「英二、そうやってすぐ人に抱きつくのは良くないよ。ほら見てごらん。手塚すごく

 嫌そうだよ。手塚はこーゆーの好きじゃないんだから」

と言って俺から菊丸を剥がした。

「ほーい。手塚ごめんにゃー」

菊丸がしょんぼりして言う。

「いや・・・・別に嫌では・・・」

そう言いかけた俺の言葉を遮断するように不二は

「さ、行くよ英二」

と菊丸の手を引っ張って部室から出て行ってしまった。

―――くそぅ。不二め。余計なこと言いくさりやがって。

俺は菊丸に抱きつかれるのは大、大、大、大好きだというのに。

せっかく2人きりの幸せな時間をぶち壊した挙句、俺と菊丸を引き離す様な事しやがって。

ヘラヘラ笑ってるわりにやる事は腹黒いぜ。天才だか何だか知らないが一度テニスで

けちょんけちょんにやっつけて背中の羽むしったろか?

 

 

俺はその日とてつもなく不機嫌オーラを出しまくったまま部活を終え、部室を後にした。帰り際、菊丸が「手塚具合でも悪いの?元気ないよ」と全く見当違いの事を天使のような声でささやいて()くれた。俺は思わず「そんなんじゃないぞ~、このおバカさん♡」と言いそうになってしまったが、すぐ横で不二が人を小バカにした様なうすら笑みを浮かべていたので(手塚ビジョン)クールに「何でもない。大丈夫だ」と言って部室を出た。

 

 

家に帰ってからも俺はずっと菊丸の事を考えていた。

やはり不二と菊丸が付き合うのは嫌だ。

どうすればいいんだ。

今日、菊丸は俺に『悩みとかあったら遠慮しないで言ってね。俺が・・・・』と言っていた・・・・。不二に邪魔されて最後まで聞けなかったその言葉・・・・。

『俺が・・・』何なんだ?!その先を知りたい。

『俺が・・・』手塚の力になってあげる?

『俺が・・・』手塚を抱きしめてあげる?

『俺が・・・』手塚の初Hの相手になってあげる?

・・・・・・・できれば一番最後の解答であってほしい。でも今のままでは菊丸の初Hの相手は

不二になってしまう。それだけは許せない。

 

―――― やはりここは 不二が告白するより先に俺が菊丸に告白するしかないか。

そうだな。それしかない。

そうと決まったら善は急げ。俺はすぐさま菊丸にメールを送った。

『明日、朝練、30分早く来るべし』

・・・・・・緊張して少しばかり言葉足らずになってしまったが、まぁいいだろう。

すると すぐに菊丸から返信メールが来た。

『ほいほーい!わかりました(^^)

あぁ、やっぱり可愛い。短い文章の中にも菊丸の可愛さ満載だ。

明日俺達は多分、恋人になれるかもしれないような気が少しだけする。

俺はかなり微妙で曖昧な結果を予想し、明日の朝の決戦に備え早めに眠りについた。

 

 

翌朝。

俺はフラフラしていた。

結局、一晩中どう告白するかを考えて、一睡も出来ずに朝を迎えた。

どう告白するかの答えは出なかったが、いろいろなパターンを予想したからまぁ何とか

なるだろう。

 

菊丸には、いつもより30分早く来るように言っていたが、俺はそれよりも早く

部室に着いた。

 

ところがここで問題発生。

 

大石がもうすでに来ているじゃないか。

何という早起きな奴。

お前はおじいちゃんか!?

誰も来ないうちに部室の前で、美しい朝日を浴びながら告白するつもりだったのに・・・・。

「お、手塚もう来たのか。ずいぶん早いな」

朝っぱらからこのさわやかな笑顔・・・・ムカツクぜ・・・・。

今のお前のセリフ、そっくりそのまま返してやる。

まさか大石という邪魔が入ろうとは予想外だった。

その時、遠くに菊丸の姿がチラッと見えた。

これはかなりマズイ状況だ。このままでは告白できない。

大石を何とかして消さなければ・・・・・。

「大石、竜崎先生がお前を探してたぞ」

「えっ?」

「何でも大切な話があると言ってたな」

「そうか。じゃぁ今から先生の所に行ってくるよ」

「そうだな、ぜひそうしろ」

・・・・よし。大石を消す事が出来た。後で大石に何か言われても「記憶にございません」の一点張りで通すとしよう。

しかし、大石が職員室から帰ってくるまでの間に告白してしまわなければ・・・・。

時間はない。急がねば。

 

「あ、手塚!おっはよ―」

・・・・この声は・・・・。

来たな愛しの菊丸!!

「おはよう。手塚」

・・・・・この声は・・・・。

「不二・・・・」

「今日はいつもより早く集合なんだよね?まだ誰も来てないの?」

最悪だ・・・・。なぜ不二が一緒に?

「どうしたの、手塚。奈落の底に落ちたような顔して・・・・。ただでさえフケ顔なのに、

 もっとひどくなっちゃうよ?・・・・・・あ、ひょっとして英二だけ個人的に呼び出したの?

 ごめーん。だったら僕はお邪魔かなぁ?」

そう言って不二は小憎たらしいうすら笑みを浮かべた。(手塚ビジョン)

―――その時、俺の中で何かがプツリと切れる音がした。

 

「・・・・手塚?どうしたの?」

動きが止まった俺を見て菊丸が心配そうに聞いてきた。

「お前達は付き合っているのか?」

「にゃ?」

俺の問いかけに、菊丸が目を大きくする。

「俺と不二とどっちが好きだ?」

「どっちって言われても・・・・」

菊丸が答えに困って下を向く。

俺は頭の線が一本切れたせいか、そんな菊丸をさておき、爆走モードへ突入していった。

「どうして不二なんだ?俺の方が不二よりもずっと菊丸の事が好きなのに。俺は

 不二と菊丸が付き合うのは嫌だ。お願いだから俺と付き合ってほしい。俺じゃダメか?」

菊丸は顔を真っ赤にし、俯きながら

「俺は不二と付き合ってないし・・・・・手塚の事がずっと好きだったよ」

と言った。

「・・・・は?」

菊丸は今何て言ったんだ?

頭の中が真っ白になっている俺に菊丸が言った。

「俺も手塚と付き合いたい・・・・」

・・・・・・何だ?この展開は・・・・?夢?そうか、夢だ。何だか体もふわふわするし

力が入らない。

「手塚?!」

遠くの方で菊丸が俺を呼んでる気がする・・・・。

 

そのまま俺は意識を手離した。

 

 

目を覚ますと、保健室の天井が見えた。

俺は一体どうしたんだ?

「やっぱりさっきのは夢だったのか?」

まだぼんやりしている意識の中、一人つぶやいてみる。

「そんな訳ないでしょ」

横を見ると不二がいた。

「不二・・・・?どうしてここに?俺は一体・・・?」

「僕がここにいるのは昼休みだからたまたまいるだけ。君は朝に部室の前で

倒れたんだよ・・・・倒れたって言うか爆睡してただけみたいだけどね。」

「あぁ・・・そうか・・・・」

その時、保健室のドアが開く音がした。

「目が覚めたの?手塚、大丈夫?具合悪くない?」

菊丸が心配そうに俺の顔を覗きこんできた。

・・・・あぁ、やっぱり最高に可愛い・・・・。そう言えば今朝、俺の爆走モードの告白()の後、菊丸は俺の事が好きだと言ってくれた気がする・・・。

あれは夢じゃないんだよな?・・・・とゆー事はつまり・・。

「手塚、今日の朝言った事・・・・本当だよね?」

頭の中でいろんな思考を巡らせている俺に菊丸が聞いてきた。

「あぁ、本当だ」

まだハッキリしない頭で、ちゃんと整理もできていなかったが、俺はクールに返事をした。

「良かった・・・じゃぁ俺達、両想いだね」

菊丸は頬を赤らめて、ニッコリ微笑んだ。

その微笑は悩天直撃の可愛さで、気を抜くとヨダレがたれてきそうな程だった。

「良かったね。手塚、英二。2人の想いが通じ合う事が出来て・・・」

不二が笑顔で言った。

2人が惹かれ合っているのは知ってたんだけど、なかなか進展しそうになかったし、

 英二も辛そうだったから、今回は僕が一役買って出たんだ。僕が英二と付き合うかも

 しれないって言ったのはカムフラージュだよ、手塚」

「不二・・・」

お前という奴は・・・・。そうだったのか・・・・。俺達の幸せの為に全て・・・・。

何ていい奴なんだ。

それなのに俺は、お前の事を「ヘラヘラ笑ってる」とか「腹黒い」とか「テニスでけちょんけちょんにやっつけて背中の羽をむしる」とか思ってしまった。

すまない、不二。許してくれ。お前は本当にいい奴だよ。

マイ・フレンド・フォーエバー!

感動に胸を震わせている俺を横目に不二が続けた。

「あ、そうだ。そう言えば今朝の君の面白い告白・・・・実はみんな見てたんだよね」

「へ?!」

「僕がみんなにメールしたんだよ。超面白いイベントがあるから、見たい人は朝練30分前

 に集合って。もちろん大石にも。そしたらみんなちゃんと集まるんだもん、元気だよね」

「み・・・んなって・・・・?」

「レギュラーメンバーは全員いたかな?いやー本当面白いもん見せてもらったよ。

 いつもクールな君がすごい形相で幼稚な告白するんだもん。かなりウケちゃった

 テニスは天才でも恋愛は未熟だよね。かっわいー!・・・・プッ・・・・」

・・・・・・・前言撤回・・・・・。俺は不二の言葉に全身の力が抜けそうになった。

少しでも不二をいい奴と思った自分が恨めしい。

「不二!手塚をいじめないでよ」

菊丸が怒り口調で不二に言った。

・・・菊丸・・・・俺をかばってくれるのか。嬉しいよ。

そうだ。俺には菊丸がいてくれる。それで充分じゃないか。

「やだなぁ、英二。いじめてるんじゃなくて面白がってるんだよ。それって手塚が

 人気者って事なんだよ?みんなも手塚が面白くて仕方ないんだ。だから青学には

 なくてはならない存在なんだよ。わかる?英二」

不二ほどの性格の悪さがなければ、このセリフは言えないな。このやろう・・・・。

「う~んよくわからにゃい」という菊丸に「そのうちわかるよ」と暗黒帝王のような微笑を浮かべて(手塚ビジョン)言った。

一生わからなくていいぞ、菊丸よ。

 

―――― 俺はその日、体調不良を理由に結局部活を休んだ。

菊丸も俺を心配して部活を休み、俺と一緒に帰ってくれた。

俺は身も心も疲れきっていた。・・・・・・・でも。

結果論、菊丸が俺の傍にいてくれるから良しとする事にした。

明日は何事もなかったように普通に部活へ行こう。

そして俺に何か語りかけて来る奴は全てグランド50周させよう。

俺は部長だ。部長に欺く奴は許さん。

 

「手塚、今日はゆっくり休んでね」

「あぁ、そうする」

「・・・・・手塚、大好き?」

「俺もだ」

そうだ。俺は他の奴の事を気にしている場合じゃないんだ。

これからの菊丸との事を考えねば。

やっと俺の菊丸になったんだから。

 

俺達はいつまでも手をつないで歩き続けた。

 

 あとがき
リクエストを頂いたので手塚をしっとさせる様
頑張ってみましたが・・・・期待を裏切ってしまったらごめんなさいm( __ __ )m
ちなみに私は不二も好きです。